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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(れ)444号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人柿本久兵衛弁護人下向井貞一上告趣意第一点(第一点だけよりない)について。

所論原判示第一の(二)の事実(所論「判示第二の事実」とあるは、「判示第一の(二)の事実」の誤記と認める)に対する証拠は、被告人の原審公廷における自供の外、上瀬昌太郎外一〇数名の者の提出にかかる始末書中のものをも綜合して認定していることは、原判示第一事実(即ち第一の(一)(二)の全事実)に対する証拠説明により明かである。そして、右始末書中、若見正提出の始末書によれば、明らかに同人が所論被告人の原判示第一の(二)の輸送行為を幇助した事実の記載があるから、原判決は所論のように決して被告人の自白を唯一の証拠として断罪したものではない。それ故論旨は理由がない。

被告人平田登弁護人鍵尾豪雄上告趣意第一点について。

原判決が挙示の証拠により被告人が判示の頃判示場所において、相被告人柿本に対し玄米未検査品六〇〇瓩白米二八八・四四瓩をいずれも所定の統制額を超過し、代金合計三万円で販売した事実を認定し、之に対し行為時法である物価統制令第三条第四条第三三条第三六条、昭和二一年一一月一日物価庁告示第一五一号同日同庁告示第一五二号等を適用処断していることは所論の通りである。そして統制額の超過販売に関する物価統制令違反の罪は、統制額を超えて売買すれば成立するものであるから、原判示のように被告人が統制額を超えて判示玄米又は白米を販売した事実を判示すれば十分であって、必ずしも所論のように超過額の幾何であるかまで明示する必要のないことは、既に当裁判所の判例(昭和二四年(れ)第一七〇号、昭和二四年七月九日第二小法廷判決参照)とするところであるから、単に超過額の判示がないとの一事を以て、原判決の理由不備を主張する所論は当らない。

尚弁護人は、前記玄米及び白米の統制額の判示のないことを理由不備の一つに挙げているのであるが、この点も挙示の物価庁告示と相俟って、その統制額が判定され得る以上、必ずしもその統制額をいちいち摘示事実中に明記しなければならないものではない。そこで、前記各告示について検討すると、先づ玄米については物価庁告示第一五一号は国内産玄米についての販売価格の統制額について指定したものであり、同庁告示第一五二号は地方食糧営団が主食用として販売する玄米についての販売価格の統制額について指定したものであること、又精米については、右告示第一五二号にその統制額が指定されているが、同告示指定の統制額は地方食糧営団が販売する場合の統制額であって、右営団以外の者が之を販売する場合の統制額は、同営団が販売する場合の統制額から正味一〇瓩につき五〇銭を差引いた額とする旨、指定されていることは所論の通りである。然し、原判決自体によっても明らかなように、被告人は農業を営む者であって、もとより地方食糧営団の如きものではないのであるから、本件の玄米の統制額は前記告示第一五一号所定のものにより、又白米の統制額は前記告示第一五二号所定の統制額中、地方食糧営団以外の者が販売する場合の統制額によったものであることは疑いのないところである。

以上これを要するに原判決には所論の如き審理不尽に基く理由不備の違法があるものとは認められないから論旨は理由がない。

同第二点について。

原判決が、被告人が法定の除外事由がないのにかかわらず、判示玄米及び白米をいずれも所定の統制額を超過して販売した事実を摘示するのみで、右除外事由を具体的に判示せず且つその点についての証拠説明もしていないことは、洵に所論の通りである。然し右判示の法定の除外事由とは、物価庁長官の許可その他の事由を指すことは、法律上明らかであって、かかる除外事由があれば法律上犯罪の成立を阻却するものである。(昭和二四年(れ)第七一七号、昭和二四年九月一五日第一小法廷判決参照)。さすれば、かかる犯罪成立の阻却要件たる事実については、たとえその摘示が具体的でなく且つこれが証拠説明に欠けるところがあったとしても、それが為に理由不備の違法を招来するものではないと言わなければならない。従って原判決には所論のような違法はないから、この点の論旨も理由がない。

仍って、刑訴施行法第二条旧刑訴第四四六条に従い、主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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